授業

 三年一組物語
   一章  教師

 三輪一夫は、今日の三時間目の音楽の授業をにがにがしく思い出さないわけにはいかなかった。
タムラは、始まってすぐ笛をピーピー鳴らしていた。「笛は、後からふきます。笛は、まだしまっておいて。」とミワは、何度も注意した。それでもタムラは、やめなかった。またタムラが、笛を吹いた時、ミワは、ぷつんと何か切れたようにタムラの笛を取り上げていた。一瞬タムラの口に笛が当たったが、そんなものかまうものか夢中で取り上げた。手に取った時すぐに三年前のことが思い出された。
 「あの時といっしょだ。」
前の学校のクラスでの事件。「同じことをやってはいけない。」その時、天の声がした。
 冷静さを繕いミワは、授業を続けた。
 「今度はみんなが高音部で先生だけ低音を歌います。」
「できるの」追い打ちをかけるようにマスダが言ったが、それは、無視することにして進めた。低音部は、練習しておいたので自信はあった。だが、こんなことは三年一組の子どもたちは知るわけはない。
「うまく歌えた。」
「いいぞ。タムラも歌っている。」
歌が終わった。「今度は笛をやります。」
ミワは、何事もなかったようにタムラに笛を渡した。タムラは吹きはじめた。ミワは、タムラの耳元に行き「さっきは、ごめんね」と言った。タムラは、泣いていた。

 松田は、がりべんだった。いつもテストの点数を気にする。今日もそうだった。テストの回答に対してしぶとく食い下がった。実は、三輪は、そこのところの○つけを悩んだすえ△につけたのだった。そこを見抜いたかのように執拗に言ってきた。三輪は、そんなにこだわることもないと思い結局○にした。こういうことが最近続いていた。
 三輪は、松田が、ごねれば何でも通るという風潮がつくのを恐れていた。何でも決まった後に言ってくるからだった。