Swimmy |
胸のどきどきと 口びるのふるえと
国分 一太郎
胸のどきどきと くちびるのふるえと
それを このぼくは はやく なくさねばならない
きょうの自治会で
「議長」と呼んで ぼくが手をあげたとき
ぼくの胸は やっぱり どきどきと たかなりだし
それは ヘソのあたりまで つたわっていった
ぼくの くちびるは わくわくとふるえだし
くちびるに 水けは なくなっていた
ぼくは いいたいことの 半分もいえず
いや、三分の一さえ いうことはできず
みんなの うすわらいを さそっただけで
ことりと すわってしまったのだ
「{ }と{ }さまのまえでは ものも言えない」
よく おじいさんや おとうさんは 言っていた
百姓の子と生まれた ぼくの血ん中には
ぼくの くちびるや ぼくの胸の中には
弱くて 古くて いくじのないものが
まだ のこっているのだろうか
学校で 自治会が あった日の帰り道
ナシの花が白く咲いた 黒板べいの下を通りながら
ぼくは ほんきになって考えていた
胸をはり くちびるをなめなめ考えていた
胸のどきどきと
くちびるのふるえと
それを このぼくは
はやく なくさねばならない
[ ]に 吉野 弘
赤い 林檎の頬をして
眠っている [ ]
お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
[ ]の頬にいってしまって
ひところの お母さんの
つややかな頬は 少し青ざめた
お父さんにも ちょっと
酸っぱい思いがふえた
唐突だが
[ ]
お父さんは お前に
多くを期待しないだろう
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり
知ってしまったから。
お父さんが
お前にあげたいものは
[ ]と
[ ]だ。
ひとが
ひとでなくなるのは
自分を愛することを やめるときだ。
自分を愛することをやめるとき
ひとは
他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう。
自分があるとき
他人があり
世界がある。
お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労がふえた。
苦労は
今は
お前にあげられない。
お前にあげたいものは
香りのよい[ ]と
かちとるにむづかしく
はぐくむにむづかしい