2007年

実習生の日誌より。

8月21日
 指示する時は、一時に一事の指示をすることです。一度に二つも三つもすると子どもは混乱します。細分化した指示、発問を用意して、できた時は、ほめる=励ますことです。それは、まだできていない子に対してその気にさせたりする働きもあります。どういう言葉を使うかは、今日渡した紙に何通りか書いておくとよいでしょう。クラスの実態がだいたいわかったと思います。まずその子をまるごと受けとめる。それから学校のルールを教えていく。学力をつけていくことですが、なかなかむずかしいのが現実です。

8月22日
 子どもたちもだんだん慣れてきたと思います。授業をするともっと慣れるでしょう。学年集会は3年の時からの積み上げもあって休み明けでもすぐできました。子どもは、一人一人、どの場面で生き生きするのか見極めるのが大切です。そしてその場を保障することで学校に来るのが楽しくなります。一番長い授業が楽しく(学力形成含めて)あればそれにこしたことはありません。その為にも私たちは、毎日教材を研究しているのです。

8月23日
 今日はご苦労様でした。まずは第1歩です。ともあれ模擬授業の成果があったのは事実で、ああいう練習が苦にならないようにしていくことが大切です。自分の発する言葉の一つ一つの吟味が必要でそれがないと言った後、不安になり何回も言い直してしまい、結局子どもを混乱させてしまうことがよくあります。今のクラスでは特別に支援しなければならない子は少なくても数人います。そういう子どもたちや上位の子どもたちも視野に入れた毎日の授業づくりは、とてもむずかしものなのです。

8月24日
 学級経営や授業においてトラブルや混乱はつきものです。そういう場合でも教師は、あわてず冷静になることが大切です。授業における混乱は、次の指示、発問で修正できますが、そこは的確な指示、発問が要求されます。また、つまずく箇所を予測しておくことも大切ですね。リズムとテンポよく、笑顔を忘れずに授業することです。学級のトラブルもいろいろな解決方法があります。どのような場合であれ、双方の子どもたちの意見を聞いてから教師が判断することです。

8月25日
 今日は昼から、「社会的養護を必要とする子どもたちの為のネットワーク作り」の総会で児童相談所の所長の講演を聞いてきた。
 また北大のM先生もいた。M先生は、内村鑑三の「後世に何を残すか」の著書をとりあげ「いさましい高尚なる生涯」とは何か?を問っていた。つまり、絶望して生きるのではなく、人生に明るい目を持ち、子ども、社会に明るい目、すなわち希望を見いだすこと。を主張していた。
 そしてサイードの言葉、(「21世紀は、血縁関係から非血縁関係に移行する」)を紹介した。
 後世に何を残すか? 大事なことだと思った。

8月27日
 いよいよ今週で終わりですね。今日の5校時のように何か一つこれは、というものを教師が持っていると良いでしょう。表情も子どもとの対応の仕方も自信があり、今までと違っていました。そういう場面を増やしていくことです。 今朝の1時間目でわかったと思いますが、子どもたちは、自尊感情が少ないです。だから、こちらの発問、指示に対して出来たら(反応したら)、できるだけほめる=励ますことがとても大切なのです。そうすると気持ちがよくなって学習に集中してきます。

8月28日
 大切なことは、一人一人の子どもをいかに授業に参加=活動させるかで、この視点がないと、教師主導になったりします。そうならないためには、常に子どもの視点で考え、どこでつまずくか予想し、子どもを変えようとするのでなく、こちら側が変わっていくようにすることです。大人である教師は、そのことは、結構むずかしいです。準備に完璧はありませんが、この視点を持っていると、たとえ準備不足でも子どもに正対して向き合えると思います。

8月30日
 ともあれお疲れさまでした。グループ活動、発表は、むずかしかったですね。(内容でなく、こまごまとしたこと含めて)なんとか無事に終わってほっとしています。最後のまとめで教師の話が多くても今の段階では仕方ありません。子どもたちとのお別れは、寂しいかもしれませんが、後、半年の大学生活を充実させるという大事な課題があります。その一つに今回の2週間があるかもしれませんね。

8月31日
 2週間、たいへんご苦労様でした。学校現場は、いかがでしたか? 多分垣間見たのは、「学校」の一部分で、教師になったらその仕事の多さに驚くかもしれません。また、様々な困難にもぶつかるでしょう。その時には、一人で思い悩まず、同僚の先生に相談してみてください。職場に一人くらい話し相手は、いるものです。いなければ友達やサークルなど自分でさがすことです。将来、よい教師人生をおくることを願っております。

 ノートの最後には、こう書いた。

 今の時期は、大学生活のラストスパートに入っていることと思います。何点か今の私が感じていることを述べて、このノートの締めくくりとします。

@失敗から学ぶ…来年、学校現場に入ると、最初は慣れないので、いろいろな失敗をするかもしれません。でも、そのことから学ぶことは、いっぱいあります。若いうちは、失敗した時こそチャンスととらえ、多いに学んでください。そして、様々な困難を乗り越えてください。

A術を鍛える…若さだけで対応できなくなる時が、やがてきます。その時、子どもたちを惹きつけるものが、いくつあるかです。また席替えのやり方、黒板の消し方、画鋲の刺し方などなど細かいことにもそれぞれ方法があります。授業の出だしも定型がありましたね。それらを一つ一つ身に付けていくことです。しかし、急いであせってはなりません。

B学問と文化こそ…教師自身が、最新の学問、文化、社会知識を持っていなければなりません。同時に子どもたちを惹きけるような現在の裏文化も幅広く知っていることも大切です。常に学ぶ姿勢を持つことが大事です。

C子ども観、人生観、世界観を鍛える…これから何十年か教師人生をおくるとしたならば自分のいろいろな「観」も育てていかねばなりません。そのことが、様々な子どもたちを自分の中に受け入れることを可能にし、また子どもとの対応する力にもなります。「観」を育てる大切さは、現在を生きる子どもたちにとっても同じです。

D自分を表現できるものを…教師=「表現者」として自分の言葉を使って話せることが大切です。言葉のほかにも何か表現できるものがあるとなおよいでしょう。そのことは、子どもたちも同じように大切です。

E自分の心と身体を大切にすること…忙しさの中でも休息を上手にとることです。かっこよくできなくても生きていくことです。                                               
 最後に私の尊敬する森有正(仏文学者)氏の言葉を書いておきます。
「エキリーブル(釣合い)を与える人」 ━ほんとうの教育者はと問われて━ から。
『私は、理想的な教師は、勇気のある教師だと思っている。また生徒の中に勇気を涵養する能力のある教師だと思ってる。』(森有正全集5. 筑摩書房)