忘れえぬ詩

往かなかった
                      ロバート・フロスト

落ち葉敷く森の道のふた手に分かれるところ
ひとりでふたつの道を往くことはできず
しばらくわたしはそこにたたずんで片方の道の
はるか先 下ばえに隠れたあたりまで
目をやって見はるかした
それからもう一方の道を調べると
こちらも同様美しく もっと誘う理由があるようだった
草ぶかく人に踏まれた様子もなく
もっとも二つの道とも実際は人の通った跡は同じほどだった
そしてあの朝は どちらの道もまだ誰の足も
踏みしだいた跡はなく 落ち葉に包まれていた
ああ わたしは初めの道を別の日にと とっておいたのだ!
しかも道はずっと先へ続くと知っていたので
またの日に戻るなどとは考えなかった
いつの日か遠いどこかでわたしは このことを
ため息とともにくりかえし語るのだろう
落ち葉の森に道がふた手に分かれていた そして私は
そう 人の往くことの少ない方をとり
それがすべてを変えたのだったと

   一つのこと
                       斎藤 喜博
いま終わる一つのこと
いま超える一つの山
風わたる草原
ひびきあう心の歌
桑の海 光る雲
人は続き 道は続く
遠い道 はるかな道
明日のぼる 山もみさだめ
いま終わる 一つのこと


   かすかな光へ
                       谷川 俊太郎
あかんぼは歯のない口でなめる
やわらかい小さな手でさわる
なめることさわることのうちに
すでに学びがひそんでいる
あかんぼは嬉しそうに笑っている

言葉より先に 文字よりも前に
波立つ心にささやかな何故? が芽ばえる
何故どうしての木は枝葉を茂らせ
花を咲かせ四方八方根をはって
決して枯れずに実りを待つ

子どもは意味なく駈け出して
つまずきころび泣きわめく
にじむ血に誰のせいにもできぬ痛みに
すでに学びがかくれている
子どもはけろりと泣きやんでいる

私たちは知りたがる動物だ
たとえ理由は何ひとつなくても
何の役にも立たなくても知りたがり
どこまでも闇を手探りし問いつづけ
かすかな光へと歩む道の疲れを喜びに変える

老人は五感のもたらす喜怒哀楽に学んできた
際限のない言葉の列に学んできた
変幻する万象に学んできた
そしていま自分の無知に学んでいる
世界とおのが心の限りない広さ深さを



最後だと わかっていたなら

                          ノーマ コーネットマレック・作 佐川睦・訳

あなたが 眠りにつくのを見るのが 最後だとわかっていたら
私は もっとちゃんとカバーをかけて 
神様にその魂を守ってくださるように 祈っただろう
あなたが ドアを出ていくのを見るのが 最後だとわかっていたら
私は あなたを抱きしめてキスをして 
そしてまたもう一度呼び寄せて 抱きしめただろう
あなたが 喜びに満ちた声をあげるのを聞くのが 最後だとわかっていたら
私は その一部始終をビデオにとって 毎日繰り返し見ただろう
あなたは 言わなくても わかっていくれていたかもしれないけれど最後だとわかっていたら
一言だけでもいい・・
「あなたを愛している」と私は 伝えただろうたしかに いつも明日はやってくる
でももしそれが私の勘違いで 今日ですべてが終わるのだとしたら
私は今日 どんなに あなたを愛しているか伝えたい
そして わたしたちは 忘れないようにしたい
若い人にも 年老いた人にも  
明日は誰にも  
約束されていないのだということを
愛する人を抱きしめられるのは  
今日が最後になるかもしれないことを
明日が来るのをまっているなら 
今日でもいいはず  
もし明日が来ないとしたら 
あなたは今日を後悔するだろうから
微笑みや 抱擁や キスをするための
ほんのちょっとの時間を
どうして惜しんだのかと忙しさを理由に
その人の最後の願いとなってしまったことを
どうして してあげられなかったのかと
だから 今日 
あなたの大切な人たちを 
しっかりと抱きしめよう
そして その人を愛していること
いつでも いつまでも 大切な存在だということを そっと伝えよう
「ごめんね」や「許してね」や
「ありがとう」や「気にしないで」を
伝える時を持とう
そうすれば 
もし明日が来ないとしても 
あなたは今日を後悔しないだろうから