児童文学の中の「生きる力」 新卒の時のことである。国語のN先生が同じ職場に偶然にも私が勤め始めた同じ年にやってこられた。ほどなくうちとけて授業のこと教室の子どもたちのことなど話すようになっていった。 N先生の読書量は、すさまじいものであった。エンデの「モモ」やル=グウィンの「ゲド戦記」を薦められ、もう夢中になって読み始めた。「教師は、児童文学を読まなくては」というのが彼の口ぐせであった。やがて職場では、私のことを「豆N」というあだ名がついてしまった。 クラスの親からは、新卒ということもあって、灰谷健次郎の「兎の眼」や「太陽の子」をすすめられたものだった。児童文学とは、無縁だったが、以後少しずつ読み続けてきた。 「生きる力」が強調されている昨今、児童文学の中には、昔から何と多くの子どもたちの生きる力が、書きあらわされていることでしょう。 ざっとみるだけでも以下のものがある。 戦前では、「路傍の石」、「次郎物語」 50年代 「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎) 60年代 「赤毛のポチ」(山中恒)、「天使で大地はいっぱいだ」(後藤竜二) 70年代 「太陽の子」 80年代 「新十津川物語」(川村たかし) 90年代 「学校」(映画)、「銃口」(三浦綾子、これは児童文学ではない。)「エイジ」、「ナイフ」(重松清、これもちがう) これらには、子どもたちの負の部分というものが、内的リアリティー(内的現実)を持って描かれているように感じる。 今の時代 児童文学が、どのような力を示していくのか、また読み続けていきたいと思う。 N先生のような先生になりたいと思っていた新卒のころ。私がN先生と出会った同じ年にとうとうなってしまった。結局N先生のようには、なれなかった。それは、どうしようもないことで、新卒の時からはるか遠くにきてしまったことをただただ感じるのみである。 |
3時のおちゃに きてください こだま ともこ作 まりちゃんが 小川のそばで れんげを つんでいると、ささぶねが ながれてきました。ささぶねには、みどり色の クレヨンで かいた 手紙が むすんでありました。 「みどりのみどりって だれかしら?でも、ケーキが あるんだもの、いかなくちゃね」 まりちゃんが 小川に かかっている はしを わたると、友だちの ゆきとくんに あいました。ゆきとくんは、おつかいの かえりでした。手には たまごの入った かごを さげていました。 「まりちゃん、どこ いくの?」 「3時の おちゃに いくの。ケーキを つくって まってるんですって。」 まりちゃんは 手紙を 見せました。 「みどりの みどりって、だれだろうね? ぼくも いっていい?」 「いいわよ。いっしょに いきましょう。」 まりちゃんと ゆきとくんが さかみちを のぼっていくと、ありが10ぴき さとうをかついできました。 「おふたりで どこへ いくんです?」 ありたちは 言いました。 「3時の おちゃに いくの。ケーキを つくって まってるんですって。」 「ケーキですって! ケーキは ぼくたちの だいこうぶつ。」 「いっしょに いきましょう。」 まりちゃんと ゆきとくんと ありが ポプラの木の下にくると リスが くるみを 食べていました。 「みんな どこに いくんだい?」 「3時の おちゃに いくの。ケーキも あるんですって。」 「ぼくも なかまに いれてくれよ。おみやげに くるみを もっていくから。」 「いっしょに いきましょう。」 まりちゃんと ゆきとくんと ありと リスが いどのところに くると、あひるが シーツを かごに とりこんでいました。 「まあまあ みなさん、おそろいで どちらへ?」 「3時の おちゃに いくの。ケーキをつくって まってるんですって。」 「それじゃあ、わたしも おともさせて もらいますよ。」 まりちゃんと ゆきとくんと ありと リスと あひるが、すいしゃごやまでくると、ロバが こなのふくろを せなかに のせて やってきました。 「ほほう、どちらへ おいでかね?」 「3時の おちゃに いくの。ケーキを つくってまってるんですって。」 「そいつぁ うまい はなしだ。わしも いかせてもらうかな。」 まりちゃんと ゆきとくんと ありと リスと あひると ロバが まきばの そばまで くると、うしが ぎゅうにゅうの かんを はこんてせきました。 「おやおや いったい なんの ぎょうれつだね?」 「3時の おちゃに いくの。ケーキを つくって まっているんですって。」 「なるほど。それでは わたしも なかまいりしようかね。」 みんなが 小川にそって、どんどん どんどんいくと、とんがりやねの 小さないえがありました。 ドアには、「みどりの みどり」と、みどり色のペンキで かいてありました。 まりちゃんが ドアのすずを ならすと、ドアがあいて みどり色の かえるが とびだしてきました。 「みどりの みどりって あなたのこと?」 「そうだよ。ぼくが みどりの みどり。」 「わたしたち 3時の おちゃに きたんだけど。」 「わあ、こんなに たくさんの 友だち!」 みどりの みどりは、よろこんで ぴょんぴょん はねました。 「でもね、ケーキが たりるかしら?」 「だいじょうぶの だいじょうぶ。さあ、みなさん せきに ついてください。」 みどりの みどりは、とくいになって 言うと、いえの中に はいっていきました。 やがて とぐちから 大きなケーキが でてきました。みどりの みどりは、ケーキのてっぺんを にらんで、そろりそろり歩いてきました。 ところが、ケーキが おもいので、あっちへ ふらふら、こっちへ ふらふら、 あら あら あら すってーん! 「あーあ」 みんなは ためいきを つきました。……… 「そうだわ!」 しばらくして まりちゃんが 大きなこえで 言いました。 「みんなの もっているもので ケーキを つくりましょうよ!」 みどりの みどりが、だいどころから ボールと あわだてきと フライパンを もってくると みんなは さっそく ケーキづくりを はじめました。 フライパンで やいた パンケーキを なんまいも かさねて、上から シロップを かけ、くるみを のせると ほら おいしそうなケーキが できあがりました。 「さあ おちゃに しましょう。」 みんなは カップを とりました。 「かんぱーい!」 その時 いえの中の とけいが、 ボーン ボーン ボーン と、3つなりました。 |